各駅物語 Vol.1 無人駅と高校生と消えゆく車両~JR男鹿線・船越駅~

各駅物語 Vol.1 無人駅と高校生と消えゆく車両~JR男鹿線・船越駅~

春。

JR男鹿線の船越駅で高校生カップルの絆を見た。

執筆:あざらしくん

慶應義塾大学在学中・理系・水族館愛好家

全国の水族館を巡りながら、まだ見ぬ日本を求めて日々迷走中

JR男鹿線船越駅

秋田県の日本海側に飛び出る男鹿半島。秋田駅と男鹿駅を結ぶJR男鹿線。沿線住民や登下校の足として今なお健在だ。

船越駅は男鹿半島のちょうど付け根に位置している。近くには八郎潟。民家や田畑が広がっている。

八郎潟を見たくて途中下車

船越水道を渡る男鹿線 Photo by Azao Mart

私は男鹿半島を周遊した後、八郎潟を一目見てみたくて1つ先の天王駅で下車した。船越駅までは歩いて20分ほど。次の列車は1時間後なのでちょうどよい。

この日はダイヤ改正前日。JR男鹿線からも国鉄車両がまさに今、役目を終えようとしていた。船越駅までの道中にある船越水道にかかる鉄橋ではたくさんの鉄道ファンが下り列車の通過をいまかいまかと待ち構えていた。

そして汽笛をあげながら通過。ものの数分後には西の山際へ太陽が沈んでいった。

八郎潟 Photo by Azao Mart

暗くならないうちにと八郎潟の端っこへ急ぐ。手前は埋め立てていない部分なので、田畑ははるか遠くにぼんやりと見える。かつては琵琶湖に次ぐ第二位の面積を誇った八郎潟。その大きさは埋め立てられてもなお健在であった。

そうこうしている間に暗くなってしまったので、船越駅へと急ぐ。

1140M 普通列車秋田行きを待つ彼女

JR男鹿線船越駅駅舎 Photo by Azao Mart

船越駅は無人駅。小さな駅舎の中にいくつかの椅子と一つだけ自動券売機がある。夕暮れ時ということもあり帰路につく多くの高校生が列車を待っていた。

私も秋田駅までの切符を買い、数段の階段を上ってホームへ。なんてことのない普通の無人駅の様相を楽しんでいた。

男鹿線の列車は地方にしては珍しく、長いときで4両ある。もちろんホームも4両分+α分作られているので大きめといえるだろう。小さな駅舎からはみ出すようにホームが続いている。

駅舎の隣は駅利用者のための駐車場になっている。そして1メートルほどの高いホームとはさらに1メートルほどのフェンスで仕切られている。

列車を待つ高校生の女の子と、見送りに来た彼氏であろう男の子がフェンス越しに話し込んでいるのが見えた。ホームのほうが高い位置にあるので、彼氏を彼女が上から覗き込むようにして手を繋いでいる。

1時間に1本の列車を待つ1人。いや2人。そういえば東京にいては、列車が入ってくるまで待つということもしづらくなってしまったように感じる。改札口はせわしなく人々が行き交い、ホームが地上にあってましてやフェンス越しに話し込むことのできる立地はいまや珍しいのではないだろうか。

そんなことを考えているうちに、列車は古めかしい音を立てながらホーム入線してきた。

そして列車は動き出す。

手を振り彼女は列車に乗り込む。船越駅は単線ホーム。ホームと同じ側の席へ座った。

やがて列車はまた古めかしい音を立てて発車する。ゆっくり薄暗闇の中船越駅が離れていく。

彼女と彼氏はずっと手を振りあっている。

なお列車は速度をあげる。

車窓からホームが消えた。

なお2人は手を振りあっている。

視線はほぼ窓に平行だ。彼女の視界に彼氏はまだ映っているのだろうか。

列車は秋田へ向かう。そして明日には役目を終える。

秋田駅に停車中の男鹿線普通列車 Photo by Azao Mart

私は秋田駅前で夕食をとるために秋田駅まで乗車。

国鉄時代から人々を運び続けていたキハ40系車両。その使命もあと4時間ほど。

明日からは新しい車両が投入される。

この2人はおそらくそのことを知らない。それでも確実に思い出を乗せて走ってきたはずだ。そして新しい車両も2人の思い出を作っていく。

そして2人の絆を繋ぎ続けていく。